「寂聴と読む源氏物語」(瀬戸内寂聴)

「プライド」という新しい視点を提示した本書

「寂聴と読む源氏物語」(瀬戸内寂聴)
 講談社文庫

現在私は、五年前に読破した
寂聴訳谷崎訳・与謝野訳の
三つの現代語訳版と、
高校生用の国語便覧、
そして源氏物語に関わる資料を
とっかえひっかえ参考にしながら、
源氏物語の原文を読み通す作業に
悪戦苦闘しております。
その資料の一つとして
本書を読んだのですが、大変面白く、
一気に読んでしまいました。

瀬戸内寂聴は本書において、
「プライド」という観点で、
源氏物語に登場する女性たちを
分析しています。
新しい視点を提示された思いです。

平安時代は(つい一昔、二昔前までも
そうだったのかも知れませんが)
男尊女卑の時代です。
源氏物語にもその様子は
しっかりと描かれ、
女性たちには男を選ぶ権利など
なかったのです。
結婚は父親が決めた相手、
もしくは忍び込んできた相手と
否応なくさせられるのです。
そうして結婚しても、
当時は通い婚でしたので、
男が通わなくなればすなわち離婚、
捨てられたのです。

しかし、本書を読むと、
源氏物語の女たちは、
実にしっかりとした自我を持ち、
高いプライドを持ちながら
生きていたことが分かります。
もちろん、寂聴自身も、
源氏物語の現代語訳の作業の中で
それを見出したと述べています。
「すべてが男性主導の時代に於て、
 女たちは愛する自由も、
 結婚を選ぶ自由も与えられず、
 男の従属物としてしか
 生きられなかったなかで、
 彼女たちが毅然としたプライドで
 身を処していたことは、
 私にとっては
 驚くべき発見でした。」

確かに、正妻・葵の上は
プライドが高かったからこそ
源氏になびかなかったのでしょうし、
六条御息所もまた
プライドが高かったからこそ
生き霊として
化けて出てしまったのです。
空蝉もまた源氏の強引なやり方
(ほぼ強姦)に対して
プライドが許さなかったのでしょうし、
田舎育ちであることを
馬鹿にされたくないのも
明石の君ならではのプライドなのです。

作者・紫式部は、
自分の作品の女性たちにそうした
プライドを持たせることにより、
プレイボーイ・光源氏との関係に
スリリングなドラマを
織り込むことに成功したのです。
女性たちがみなプライドを持たずに
源氏に従順であれば、
物語にはならなかったでしょう。

寂聴が分析するとおり、
作者・紫式部もまた人一倍プライドが
高かったことが推察できます。
特にときの権力者・藤原道長との
関係についての考察は
一読の価値があります。

以前も書きましたが、
現代に生きる私たちが古文を読んで
それを正しく理解することは
極めて困難になりました。
現代語訳を読んだとしても、
その時代の空気を
正確に捉えたことにはならないのです。
さまざまな文献や資料を通して
多角的に切り込んでいくことこそ
大切なのだと感じています。
本書は、源氏物語を理解する上で
極めて重要となる一冊と考えます。

(2020.4.18)

Pop-sanさんによる写真ACからの写真

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